[大阪公立大学]新型コロナウイルスの発症や重篤化にも影響! 宿主の遺伝子発現を阻害する因子を新たに発見

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<ポイント>

  • mRNA の核外輸送を阻害する、新型コロナウイルスの因子を新たに発見。
  • 核外輸送の阻害は症状の発症や重篤化にも繋がるため、病態解明にも寄与。

<概要>

生物の体内では、mRNA に転写された遺伝情報は、細胞の核から細胞質へ輸送され(核外輸送)、タンパク質に変換されることで発現します。多くのウイルスは、自己の複製や増殖に適した環境を作り出すために、さまざまな手段で宿主の遺伝子発現を抑制し病気への抵抗力を無力化することが知られています。新型コロナウイルスもその手段の一つとして、mRNA の核外輸送を阻害しますが、そのメカニズムの全体像は解明されていませんでした。

大阪公立大学大学院 獣医学研究科の片平 じゅん准教授らと、理化学研究所、大阪大学、愛媛県立医療技術大学、国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所らの共同研究グループは、新型コロナウイルスが持つ因子 Nsp14※1が、核外輸送の過程で重要な役割を果たすmRNA のキャップ構造※2の類似体(メチル化 GTP※3)を細胞内で量産することで、核外輸送を阻害することを解明しました。mRNA の核外輸送の阻害は、新型コロナウイルス感染症の発症や重篤化に深く関与するため、本感染症の病態解明においても重要な知見となると考えられます。

本研究成果は、Oxford University Press が刊行する国際学術誌「Nucleic Acids Research」のオンライン速報版に、2023 年 6 月 1 日に掲載されました。

図 Nsp14 による mRNA 核外輸送阻害の概略図

<片平 じゅん准教授のコメント>

大学院生の頃から核-細胞質間における物質輸送の分子機構に興味を持ち研究してきました。一見難解で何の役に立つのかわからないような基礎研究の成果が、創薬や治療法開発など、多くの人に役立つ研究につながれば本望です。

<研究の背景>

ウイルスの複製や増殖を抑制するためには、インターフェロン反応のような宿主側の防御機構が重要です。この防御機構を機能させるためには、宿主側の新たな遺伝子の発現が必要になりますが、多くのウイルスはさまざまな手段で宿主の遺伝子発現を抑制し、防御機構を無力化します。mRNA 核外輸送の阻害による遺伝子発現抑制は、多くのウイルスが取る戦略の一つであり、新型コロナウイルス感染時にも、mRNA 核外輸送阻害が起こることが知られていましたが、そのメカニズムの全貌は明らかになっていませんでした。

<研究の内容>

24 種類の新型コロナウイルスのタンパク質の機能を調べることで、新たに Nsp14 を mRNA核外輸送阻害タンパク質として同定することに成功しました。

また、生体内に含まれる低分子量の代謝物質の種類や量を網羅的に調べる実験手法(メタボローム解析)を応用することで、Nsp14 は細胞内のメチル化 GTP の濃度を上昇させることを見出しました。細胞内で量産されたメチル化 GTP は、キャップ構造の類似体、つまり偽キャップ構造として働くことで、mRNA の核外輸送などを阻害し、細胞にさまざまな障害を引き起こします。本研究で明らかになったキャップ構造の類似体生成による核外輸送阻害は、これまでに知られていなかった遺伝子発現抑制戦略であり、新型コロナウイルス感染時に見られるさまざまな病態にも関係すると考えられます。

<期待される効果・今後の展開>

今後、Nsp14 による遺伝子発現抑制が、どのような病態に関係するのかを明らかにする必要があります。それにより、本研究の成果が、感染に伴うさまざまな症状の治療に役立てられることが期待されます。

<用語解説>

※1 Nsp14(non-structural protein 14)

ウイルスの複製に関係する酵素タンパク質。

※2 キャップ構造

mRNA の 5’-末端に見られる構造で、mRNA の転写や核外輸送、タンパク質の生成において、さまざまな反応を促進する目印の機能を担う。構造中にメチル化 GTP を含んでいる。

※3 メチル化 GTP

GTP(グアノシン三リン酸)のグアニン塩基の N7 位にメチル基(図中の赤字)が付加されたもの。

<掲載誌情報>

発表雑誌】Nucleic Acids Research

論 文 名】Nsp14 of SARS-CoV-2 inhibits mRNA processing and nuclear export by targeting the nuclear cap-binding complex

著 者】Jun Katahira, Tatsuya Ohmae, Mayo Yasugi, Ryosuke Sasaki, Yumi Itoh, Tomoko Kohda, Miki Hieda, Masami Yokota Hirai, Toru Okamoto, Yoichi Miyamoto

掲載 URLhttps://doi.org/10.1093/nar/gkad483

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